バブルの崩壊により、わが国の金融システムは不安定な状況に直面し、日本経済の景気低迷の一因となった。このように長期にわたる金融制度の停滞状況から、預金者保護のために、公的資金の導入という非常時対策などを打ち出し、ようやく金融危機を回避するところまできている。
しかし、個人を中心にマネーはより安全性を求めてきわめて保守的な動きをみせ、預貯金中心の資産選択は、あまり大きな変化を示しておらず、金融市場の活性化を遅らせている。この間、米国では金融技術革新などにより長期の経済成長を遂げており、株価上昇により金融市場もますます活性化している。欧州ではユーロの通貨統合も始まった。遅れて実施された日本版ビッグバンにより、わが国でも金融環境は徐々に変化はしているが、そのスピードは欧米諸国と比較すると遅々としている。いまだ個人投資家の立場に立った包括的な法整備もなされていない。今後、わが国経済を回復させるためには、金融における競争によって強力な金融システムを構築することが不可欠である。このためには、個人の金融資産選択においても大きな変化が要求されている。
ビッグバン実施後、急激なグローバル化と公平で自由な金融環境が開かれたが、家計(個人投資家)は、未だに約6割の資産を預貯金という保守的な形態で保有している。供給サイドである金融機関は、金融技術・金融工学の研究を欧米に劣らないように進め、さまざまなリスク管理を科学的な方法で進め始めている。しかし、金融技術の開発成果を普及するには、個人顧客や個人投資家が、新しい金融市場に対応した資産選択を行えるよう適切な情報提供活動を行うことが不可欠である。そのためには日本人の貯蓄活動に合った金融テクノロジーの開発を進め、個々人に金融自由化時代に対応できるノウハウを示し、マーケットでの金融の流れをより一層活性化する必要があるだろう。一方、社会構造においてすでに高齢化社会が始まっており、個々人の豊かな生活を実現するための生活資金の確保と安全な資産管理の工夫は緊急の要望事項となっている。すなわち、ライフプランをベースにした生活科学という学問領域を確立していくことが社会的なニーズになってくることが予想される。そのためにも、パーソナル・ファイナンス面での学問的体系化と高齢化時代の資産運用という社会的ニーズとの仲介機能を果たす顧客重視型の金融実務家の育成が必要となる。
そこで我々は、大学を中心とした研究機関でのパーソナル・ファイナンスに関する学問的研究の強化と海外・国内における産業界でのCFP(R)認定者など実務家との継続的なコラボレーションの場を設けることが肝要であると考えた。相互交流による実社会に対応した研究の水準アップを目的とするとともに、日本人に適した個人の資産設計、資産管理のノウハウが生活科学という学問的裏打ちをされることにより個人投資家・預金者の利益に資することが本学会の目的である。
(2000年3月25日)